ブッキングテーブル いつでも、美味しい予約を。

歴史が育むつゆと清冽な更科が到達した極みの味

返しで味付けされた肴と純白の更級蕎麦を求め、世界各地の美食家が集う

取材日

2008年からミシュラン1つ星に輝く翁。蕎麦好きや美食家の間で知らない人はいない、江戸の伝統を継承する更級蕎麦の店だ。

スタイリッシュなビルの地下に現れる「和」の空間
スタイリッシュなビルの地下に現れる「和」の空間

店内に一歩進み、靴を脱ごうとする人は多いだろう。しかしスタッフから「そのままお進みください」とにこやかに案内される。土足で歩くのがためらわれるほど、木の床は磨き抜かれてつややかだ。通路右手には個室、左手にはテーブル席。さらに進めばカウンターと掘りごたつ席。バリエーション豊かな席は、記念日に、会食に、接待に、さまざまなシチュエーションに対応できる。

掘りごたつ席のほか、テーブル席の個室もある
掘りごたつ席のほか、テーブル席の個室もある

少人数ならぜひ座りたいのがこのカウンター席。料理長の中島潤さんの美しい包丁さばき、絹糸のような更科蕎麦が茹で上がる様子を目の当たりにできるのは、この席ならではの特権だ。以前は更級蕎麦を考案した四代目の直系に当たる現・八代目である女将、堀井君子さんとの会話を楽しみに足しげく通う常連も少なくなかった。中島さんによれば、外では立派な肩書きを持っている重鎮が女将さんに叱られるためにやって来て、そして実際、にこにこしながら叱られているのもよく見かける光景だったという。今はこのカウンター越しに、人懐こい笑顔で和ませてくれる中島さんと交わす会話が楽しい。

カウンターは中島さんの包丁さばきを見られる特等席
カウンターは中島さんの包丁さばきを見られる特等席

ミシュランの星を獲得している店とあって、客層は幅広い。定期的に訪れる常連、地方からわざわざ足を運ぶ人、来日のたびに必ず訪れる外国人など多彩だ。しかし敷居が高いのかと思えば、決してそんなことはない。店内のあちこちに飾られた小物には遊び心が見え隠れしているし(にぎやかな招き猫には思わずほっこりさせられる)、女性の一人客が予約もなしにぶらりと訪れても、席に空きさえあれば快く迎えられる。予約が原則といえど、「女性が一人でもふらりと入れるような店にしたい」というのが、約四半世紀前にこの店を開店した当初から、女将さんが常々言っていたことだ。

かつて、更科には蕎麦だけを食べる人のための入口と、酒肴を楽しみ蕎麦で締める人のための入口という、2つの入口があった。翁は後者のスタイルだから営業は夜のみ、15,000~25,000円(税抜)の3種類のコース料理を揃える。いずれもお通しから始まり8品ほどの料理が提供されるが、前菜の盛合せを一口食べれば、その時点でもうお酒をお代わりしたくなることだろう。返しで味付けされた見た目も器が引き立て、お酒と一緒に味わうことで互いの味がさらに高まる。

前菜の盛合せ。海老、鱈の白子、牡蠣、白イカ、カスゴ鯛とわらびのたたき。いずれも返しで味付けされている
前菜の盛合せ。海老、鱈の白子、牡蠣、白イカ、カスゴ鯛とわらびのたたき。いずれも返しで味付けされている

すき焼きの代用品として食されていた江戸前料理のネギマ鍋は、ここでは重くなりすぎないよう焼きで出される。脂の乗ったトロは食欲をそそる香りを立ち上らせ、口に含めばほろりととろける。うまい、という言葉以外、見つからない。

江戸前の象徴、ネギマ焼き
江戸前の象徴、ネギマ焼き

風味を損なわないよう作り置きはせず、タイミングを計って打たれた蕎麦が出てくるのはコースの最後。輪島塗の漆器が蕎麦の白さを際立たせる。長い年月をかけて作り上げた、厚削りの本節からとった濃厚な出汁と返しは、何年もの間、注ぎ足されていくことで深みを増し続ける。芳醇な甘みのあるつゆと更科のバランスは、中島さんいわく「完成形に近い」。つるりとした上品な食感と、鼻に抜ける蕎麦の香り。添えられた新鮮なわさびのおいしさにも驚かされる。湯葉を何層にも重ねて冷やしてできたくみ上げ湯葉を揚げ出し豆腐風にした揚げ出し湯葉、翁の看板メニューでもあるトリュフ蕎麦なども、コースで提供される。

右木戸の蕎麦屋は更級蕎麦で締める
右木戸の蕎麦屋は更級蕎麦で締める

江戸の蕎麦文化を受け継ぎ、築き上げてきた歴史の分だけ深まってきた味。「翁に来れば必ずおいしいもの、びっくりするような物が食べられる」という期待を抱いて来て欲しいと中島さんは言う。その期待値が高いほど、そば職人としての腕がなる。伝統を守りつつ進化を恐れず、常に「完成形」を希求する店だ。

※本記事は2017年3月10日取材時点の情報です。
※注記のない価格は消費税込みの価格です。

お店の方の紹介

中島 潤(なかじま じゅん)

中島 潤(なかじま じゅん)

1962年、兵庫県出身。「永坂更科」出身。1801年開業の「更科堀井」の7代目堀井松之助の四女である女将の堀井君子さんに招かれ翁に入る。

インタビュー

Q.蕎麦への思いを聞かせてください。
出身の兵庫県では蕎麦粉が取れます。しかしそば職人がいないために、蕎麦はうどんつゆで食べていました。ちゃんとした蕎麦つゆはどんなものか学びたい、そう思って上京しました。修行を重ねていくうちに関東と関西のかつお節の違いもわかるようになり、バーチャルではありますが、自分の中で蕎麦つゆの完成形が作り上げられていきました。ではこのつゆに合う蕎麦は何だろうと考えて、たどり着いたのが更科です。蕎麦職人は蕎麦から入る人が多いのですが、僕はこうやってつゆの方から入ったので、今もつゆありきの蕎麦だと思っています。
Q.お客様には蕎麦をどのように食べてもらいたいですか?
「正しい食べ方を教えて」と言われることもありますが、食べたいように食べていただくのが一番おいしく感じていただけるはずです。蕎麦の先にだけちょっとつゆをつけるのも、蕎麦にたっぷりつゆを絡ませるのも、あるいはつゆに薬味をたっぷり入れるのも、どんなスタイルもありです。「こうでなければいけない」という決まりはありません。ぜひ食べたいスタイルで楽しんでいただければと思っています。
Q.好きな食べ物はなんですか?
好き嫌いなく何でも食べます。ジャンルの偏りもありません。「その時食べたいものがおいしいもの」だと思っているので、蕎麦の食べ方も「食べたいように食べるのが一番」と思えるのかもしれません。

お店の情報

店名
ジャンル 和食
エリア 恵比寿・中目黒・代官山・広尾
住所 東京都渋谷区恵比寿西1-3-10

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